JIA環境建築賞

第20回環境建築賞 総評

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 2020年は、想像だにしない一年であった。皮肉なことに、新型コロナウイルスによって観光客の人影が消えたヴェネツィアでは濁っていた運河が透き通り、大気汚染が深刻なインドでは青空が戻ったという。我々は想像以上に地球を痛めつけていたことを思い知らされた。これまで私たちは、気候変動や社会情勢などについてある一定のロードマップの予想を元に対策を行ってきたが、いま前例のない危機を前に人類は知恵を絞り、医療関係者や多くの人々の努力によって、乗り越えようとしている。それと同時に、これらの出来事が日常になりつつあるという不思議な状況でもある。
 一つわかったことがあると言えば、地球や都市、建築、人も、すべてはつながっているという事実である。だからこそ、われわれ建築家はそのつながりを大切にし、場所や周辺環境が発する小さな声にもう一度しっかりと耳を傾けることが求められているのではないだろうか。
 しかしながら人間は逞しい。歴史を振り返れば、ペストで苦しんだ後、14世紀にフレンツェでルネサンスを花開かせた。転換期にあるいま、建築は何ができるだろうか。環境に想いをめぐらし、その場所にしかできない、価値観を共有できるような新たな場所を創ることなのではないかと思う。
 21回目を迎える今年は、グランプリであるJIA環境大賞を新たに創設した。一般と住宅に分けられていた部門を一本化し、新たに活動部門を加えた。建築単体だけでなく、建築行為によって面的に広がることも一つの環境建築として評価しようと考えたからである。したがって、まちづくりやランドスケープ、景観なども応募の対象とした。応募内訳は、建築作品として33作品、活動として1作品の応募があった。審査委員6名が事前に書類審査と議論を行い、現地審査候補を8作品(住宅4件、一般3件、活動1件)に絞って現地へ赴き、設計者やクライアントと対話することで議論を深めていった。例年の公開審査は、応募者が東京に集まり公開審査を行ったが、今年は審査委員のみがJIA建築家会館に可能な限り集まり、設計者はすべてオンラインでの公開プレゼンテーションとなった。
 その結果、第一回のJIA環境大賞は「一宮のノコギリ屋根」が受賞した。この住宅は、南側にせり上がる逆勾配の3枚の屋根によって、工場建築の形式であるノコギリ屋根の北側採光が、住宅建築の南側採光の一つの形式となり得ている。周辺に残る織物工場からヒントを得て、それを南北逆に配置することで、夏涼しく冬暖かいという環境を手に入れている。現地審査委員は、せり上がり庇は圧迫感がなく、リビングに座るとちょうど空が見え、開放感や明るさを保っている点も高く評価した。最終投票では「一宮のノコギリ屋根」と「クールツリー」「候補者なし」に意見が割れたが、審査委員全員の公開による議論において、満場一致で「一宮のノコギリ屋根」が大賞に選ばれた。
 大賞候補として最後まで議論された「クールツリー」は、活動としての応募である。太陽光をエネルギー源としたミストによる冷却効果も備えた、家具と建築の間のような大きな傘のような木陰を持つベンチが注目を集めた。真夏のオリンピックの開催に対し、どのようにすれば涼しい空間を都市に創出できるかを考え、施工者やメーカーも巻き込み、4年にわたる設計者有志の社会実験としての活動が審査委員に評価された。木材のサステナブルな利用も含め、今後のさらなる展開に期待された。
 優秀賞には活動の「クールツリー」と、建築作品の「大きな地形を背負う環境住宅」と「港南区総合庁舎」が選出された。規模も用途も様々な作品が選出され、環境建築の多様さ改めて感じる結果となった。「大きな地形を背負う環境住宅」はクライアントが土地購入を決めるきっかけとなった丘上の素晴らしい眺望を得るために開放感を第一に考え、それに応えるように設計者とエンジニアは太陽光の熱を最大限に利用する蓄熱を試みた。風や光や熱的環境を無理なく折り合いをつけ、住み手と一緒に育てていくような建築や設計者の姿勢が評価された。「港南区総合庁舎」は多くの環境技術や取組みにチャレンジしている建築でありながら、地下鉄の湧水に注目した点が大きな評価となった。基本設計が途中まで進むなか、敷地外にある未利用エネルギーを発見し、コストスタディ により6年でイニシャルが回収されることなどを含め、各部署との調整を粘り強く行い実現に至った。これらの設計者の思いと多くの関係者の協力によりZEB Ready相当を実現した庁舎は、大きな前進であると評価された。
 日本は多彩な環境が存在する。ともすれば、コストバランスや熱的性能と、こうありたいという場所や住み手の声とは相反する。しかしながら今年は、単なる技術的な解決ではなく、設計者がクライアントと共にその場所や周辺環境のポテンシャルや新たな価値を発見し、建築や都市環境とうまく折り合いをつけな がら、そこにしかできない唯一の環境を一緒につくり上げていた。その姿勢も、大切なパッシブデザインのひとつであることを、私たちに示してくれる作品が多かった。多彩な作品が集まり、今後の展開を大いに期待できるJIA環境建築賞であった。

審査委員長 小堀 哲夫